プレミアリーグで活躍するには、サッカーの実力だけでは不十分です。
「ビザの取得」という法的なハードルをクリアしなければ、イギリスでプレーすることはできません。特に2021年のEU離脱以降、イギリスの就労ビザ制度は大きく変化し、これまでEU選手が自由にプレーできたルールが一変。
日本人を含むノンEU圏の選手にとって、就労ビザの条件やポイントシステムの理解は不可欠です。本記事では、プレミアリーグで就労ビザを取得する条件、流れ、実際の取得事例や制度の背景までを詳しく解説していきます。
- ビザの種類と制度の概要
- 必要条件と申請フロー
- 日本人選手が直面する壁
- クラブ側の戦略と対応
- 選手以外のビザ事情
プレミアリーグで働くために必要なビザとは?
プレミアリーグは世界最高峰のサッカーリーグであり、各国のスター選手や有望な若手が集まる舞台です。しかし、単にサッカーの実力があるだけではイギリスでプレーできるわけではありません。プレミアリーグで働くためには「就労ビザ」の取得が必須となっており、選手も指導者もこの条件をクリアする必要があります。
イギリスの労働許可制度の概要
イギリスでは、外国籍の人物が現地で働くために「就労ビザ(Work Visa)」を取得しなければなりません。特にスポーツ選手の場合は「Governing Body Endorsement(GBE)」という評価制度に基づき、ポイント制でビザが発行されるかが決まります。
制度名 | 対象 | 評価基準 |
---|---|---|
Governing Body Endorsement | プロアスリート | 出場歴・所属クラブ・代表歴など |
サッカー選手に適用される就労ビザの種類
サッカー選手が取得するのは、正式には「Sportsperson visa (T2)」というカテゴリーのビザです。このビザはクラブがスポンサーとなり、イギリス政府に対して雇用を保証する形式で発行されます。
✔️ 英国FAからの推薦(Endorsement)が必要
✔️ 所属クラブがスポンサーライセンス保有
✔️ 条件に合致すれば最長3〜5年の滞在が可能
ポイントベース制度(PBS)とは?
2021年から本格的に導入されたポイントベース制度(Points-Based System)は、選手の実績を数値化して可視化する仕組みです。一定以上のスコアを獲得することで、自動的にビザ取得資格を得られます。
- 国際Aマッチ出場歴
- 所属クラブのリーグレベル
- 出場試合数と成績
- 欧州大会でのプレー歴
過去の制度との違い
以前はEU圏内の選手であれば就労ビザは不要でしたが、Brexit(EU離脱)以降、すべての外国籍選手にビザが必要となりました。これにより、ヨーロッパの若手選手もポイント制の対象になり、「実力を証明しないと移籍できない時代」へと突入しました。
現地クラブが取得手続きを行う流れ
プレミアリーグのクラブは、「スポンサーライセンス」を取得した上で、所属予定選手のGBE申請・ビザ申請までを一貫して行います。選手側は必要な書類(パスポート・証明写真など)を提出するのみで、多くはクラブが代理で手続きを進めます。
プレミアリーグの就労ビザ取得に必要な条件(特例含む)
プレミアリーグでのビザ取得には、イギリス政府が定めた厳格な評価基準をクリアする必要があります。これらの条件は、「ポイントベース制度」として統一されており、各項目に点数が設定されています。
国際試合出場数の条件とは?
最も重視されるのが、直近2年間での国際Aマッチ出場率です。国のFIFAランキングに応じて、必要な出場割合が定められています。
FIFAランク | 必要な出場率 |
---|---|
1〜10位 | 30%以上 |
11〜20位 | 45%以上 |
21〜30位 | 60%以上 |
31位以下 | 70%以上 |
リーグやクラブの評価ポイントとは?
所属していたクラブやリーグのレベルも評価されます。以下のような評価項目があり、それぞれにポイントが付与されます。
- 欧州5大リーグ(プレミア、ラ・リーガ等)所属
- リーグ戦の試合出場数
- 欧州大会(CL、EL)への出場歴
特例承認(エクセプショナル・タレント)制度の活用
通常のポイントに満たない場合でも、「エクセプショナル・タレント」制度により特例的に承認される場合があります。若手選手で将来性が高いと認められた場合や、特別な事情がある場合に限られます。
📝 例:冨安健洋選手はイタリア・ボローニャ時代の実績を評価され、特例扱いの対象に。
他にも久保建英選手などが、欧州実績を積むことで将来的にビザ条件を満たす可能性あり。
就労ビザ取得の流れと必要書類
プレミアリーグで就労ビザを取得するためには、選手本人の条件だけでなく、所属するクラブが適切な手続きを行う必要があります。ここでは、具体的な申請フローと必要な書類について詳しく解説します。
スポンサーライセンスの取得とは?
就労ビザの申請には、選手を雇用するクラブが英国内務省(Home Office)から「スポンサーライセンス」を取得している必要があります。このライセンスを持っていないクラブは、外国籍選手を雇用することができません。
- クラブはライセンス更新と監査に対応する義務あり
- ライセンスの有効期限は最長4年
- 違反があるとライセンス停止・取り消しも
クラブ側が行う手続きの内容
スポンサーライセンスを持つクラブは、選手に対して「Certificate of Sponsorship(CoS)」を発行します。これは就労契約の保証を意味する書類であり、これを基に選手は就労ビザを申請します。
✅ CoSはオンライン申請で発行
✅ 発行には詳細な選手情報と契約内容が必要
✅ ビザ申請にはこの証明書の番号が必須
ビザ申請者が用意すべき資料
実際に選手が用意する書類は多くありませんが、間違いのない提出が求められます。
必要書類 | 内容 |
---|---|
パスポート | 6ヶ月以上の有効期限があるもの |
証明写真 | 最新のカラー写真(英国の規格に準拠) |
CoS番号 | クラブから提供される |
ビザ申請料 | 約£610〜(変動あり) |
日本人選手がプレミアリーグでビザを取得する難しさ(外国人選手との違いなど)
日本人選手がプレミアリーグに移籍する際、「ビザの壁」が大きな障害になるケースが多く見られます。なぜなら、日本代表のFIFAランキングや代表戦出場率の関係で、評価ポイントが不足するケースが多いためです。
日本代表のFIFAランキングの影響
ビザ取得の条件には、「国際Aマッチ出場率」があり、これはその国のFIFAランキングに大きく左右されます。日本は概ね20〜30位の間に位置しており、このランクでは60%以上の出場率が求められます。
若手選手にとってはこの基準を満たすのが非常に難しく、代表経験があっても基準に届かないという事態も珍しくありません。
欧州内他リーグ経由での実績形成
こうした条件を補うために、日本人選手は一度ベルギーやオランダなど、ビザ取得の難易度が低い欧州リーグに移籍し、そこでの実績を積み上げてからプレミアリーグに挑戦するという流れが一般的です。
- 堂安律選手:オランダ→ドイツ→プレミアを目指す流れ
- 三笘薫選手:ベルギーのユニオンSGで活躍しブライトン移籍
最近の日本人選手の取得事例
近年では、冨安健洋選手(アーセナル)が典型的な成功事例です。イタリア・ボローニャでのプレー実績と、日本代表での安定した出場が評価され、GBE条件をクリアしプレミア移籍を果たしました。
🧩 他にも
✔️ 南野拓実(リヴァプール)
✔️ 三笘薫(ブライトン)
などがそれぞれ異なるルートでポイント条件を満たし、就労ビザを取得しています。
就労ビザをめぐるクラブ側の戦略
プレミアリーグのクラブは、単に選手の実力を見て契約を結ぶだけではなく、ビザ取得を見越した中長期的なスカウティング戦略を持っています。特に外国人選手に対しては、就労ビザの発給条件を考慮しながら契約や育成を計画しています。
若手有望株のスカウトとビザ取得計画
近年、多くのクラブが「直接プレミアでプレーさせる」のではなく、「他国リーグでの経験を積ませてから戻す」戦略を採用しています。これは、ポイント制をクリアしやすくするための措置であり、実力だけでなく「制度対策」の一環です。
- 三笘薫選手:ユニオンSG(ベルギー)で活躍後、ブライトンへ
- ファクンド・ペリストリ選手(マンU):スペインで武者修行
- ガブリエル(アーセナル):リールで経験後プレミア参戦
EU離脱後の方針変更
Brexit以降、EU選手もビザが必要になったため、従来の「EUルートでの補強」が難しくなりました。これにより、クラブはアフリカ・南米・アジア市場にも目を向けるようになり、ビザ制度を熟知したスカウトの存在がますます重要となっています。
国内育成とのバランス戦略
海外選手に頼りすぎると、イギリス国内での育成政策に影響が出るため、ホームグロウンルールとの兼ね合いも重要です。クラブは育成選手と海外補強のバランスを取りながら、ビザ取得リスクを低減しています。
✅ プレミアでは1クラブにつき最大17人まで外国人登録可能
✅ 残りの枠はホームグロウン(自国育成)選手で補う必要あり
アマチュアや指導者が取得できるビザの種類
プレミアリーグで働くのは選手だけではありません。コーチ・アナリスト・スカウト・医療スタッフなども外国籍である場合が多く、それぞれが必要なビザを取得しています。ここでは、選手以外のビザ事情について解説します。
コーチやアナリストに適用されるビザ
サッカー指導者や戦術アナリストには「Skilled Worker Visa」が適用されるケースが多いです。サッカーFAが認める「資格」や「実績」がビザ取得の鍵となり、一定の給与水準も必要です。
職種 | ビザ種類 | 条件 |
---|---|---|
ヘッドコーチ | Skilled Worker Visa | UEFA Proライセンス等 |
アナリスト | Skilled Worker Visa | スポーツ科学の学位+実務経験 |
トライアルや短期留学時のビザ
若手選手やユース世代が短期でプレミアクラブを訪れる際には、「Standard Visitor Visa(観光ビザ)」や「Short-term Study Visa(短期留学)」が使われます。これは報酬を受け取らない非就労目的の滞在であれば認められています。
ただし、トライアル中に給与を発生させることは認められておらず、クラブ側の法的責任が厳しく問われる点には注意が必要です。
永住権・市民権取得との関係
長期間イギリスで働いた選手や指導者は、永住権(ILR)や市民権を申請する資格を得ることが可能です。これによりビザ更新の手間がなくなり、プレミアクラブとの長期契約も結びやすくなります。
- 連続5年以上の就労ビザ保有
- 無犯罪証明の提出
- イギリスでの生活基盤(住宅・納税)
✅ 元アーセナルのロシツキーやレーマンなど、一部外国人選手は現地永住権を取得し、イングランドのコーチや解説者として活躍中。
まとめ
プレミアリーグでプレーするためには、サッカーの才能と同じくらい「ビザ取得の要件を満たすこと」が重要です。国際試合の出場数や所属クラブのレベルが評価基準となり、選手の実績だけでなく、クラブ側の理解と対応力も求められるのが現実です。
また、EU離脱後に新設されたポイントベース制度(PBS)により、特定の条件をクリアしなければプレミアリーグでの就労許可が下りない構造となっています。
日本人選手にとっては厳しい制度ではありますが、近年では冨安健洋選手など、実績を重ねて条件を満たすことでビザ取得に成功した事例も増えています。本記事を通じて、今後イギリスでプレーを目指す選手や関係者が正しい知識と戦略を持つことの重要性を理解していただければ幸いです。