サッカーの試合中、「決定機阻止」という言葉が登場すると、それは重大な局面であることを意味します。相手チームの得点を阻止するこの行為は、ルール上で明確に定義され、時にはレッドカードが提示されるほどの重要な判定対象です。
本記事では、「決定機阻止」の正確な意味とルール、DOGSOとの関係、さらにはハンドによるケースや実際の有名な判定事例、審判やVARとの関わりまで、幅広くかつ分かりやすく解説します。
決定機阻止の意味やルール上の定義を知りたい
「決定機阻止(DOGSO)」は、サッカーの試合における重要な判定基準のひとつであり、ルールブック上でも厳しく規定されている行為です。
特に守備側選手が意図的に、または重大な過失で相手の明確な得点機会を阻止した場合、この決定機阻止が適用されます。このセクションでは、サッカーにおける決定機阻止の定義、DOGSOとの関係、判定基準、ルール変更の経緯、さらには一般的なファウルとの違いについて詳しく解説します。
決定機阻止とは何か?サッカーでの意味と定義
決定機阻止(英: Denial of an Obvious Goal-Scoring Opportunity, 通称DOGSO)とは、明らかに得点のチャンスである場面において、守備側の選手が反則行為を行うことで、相手選手のゴール機会を阻止する行為を指します。これはルール上、非常に重い違反として扱われ、通常はレッドカード(退場)やPKなどの厳しい処分が科されます。
FIFAの競技規則では、「明らかな得点機会の阻止」として明確に定義されており、故意かどうかを問わず、状況の重大性によって処罰が判断されます。特に「明らかに得点の可能性がある」とみなされるプレーに対してのファウルは、通常のファウルよりも遥かに重く扱われることが特徴です。
DOGSOとの関係と使い分け
「決定機阻止」という言葉と「DOGSO」は本質的に同じ意味を持ちますが、実際の現場やルールブックでは「DOGSO」という用語が正式名称として使われています。日本語では「決定的得点機会阻止」と訳され、競技規則の中では「DOGSO」や「明らかな得点機会の阻止」といった表記が多く見られます。
実務上は、解説者や審判講習などでは「DOGSO」が専門用語として頻出しますが、観戦者や一般ユーザーが使う場合は「決定機阻止」という表現のほうが親しみやすく、検索されやすい傾向にあります。したがって、使い分けとしては場面に応じて柔軟に対応することが望まれます。
得点機会阻止の4つの判断基準
DOGSOの判定は審判の裁量が大きく関わりますが、基本的には以下の4つの要素が明確に満たされているかを確認することで判断されます。
- ボールがゴール方向に進んでいるか(攻撃の方向性)
- 反則された選手がボールをコントロールしていたか(ボール支配)
- ゴールとの距離が近いか(得点の可能性)
- ディフェンダーやGKの位置(阻止できる選手が他にいないか)
これらの要素がすべて揃った場面でのファウルは、DOGSOとして厳格に判定され、レッドカードやPKの対象となります。
ルール改正による変遷と背景
DOGSOのルールは2016年に大きな変更が加えられました。それまでは、どのような決定機阻止でも原則としてレッドカードが出されていましたが、この年の改正により、ペナルティエリア内での「正当なプレーによるファウル」(例:ボールに向かってタックルをしようとしたが失敗した場合)に関しては、イエローカードで済む可能性が生まれました。
これは「トリプル・パンニッシュメント」(レッドカード+PK+出場停止)の過酷さを和らげるための配慮であり、プレーの内容によって柔軟に対応するという審判への裁量が広がったと言えます。一方で、故意のハンドやラフプレーによる決定機阻止は依然としてレッドカード対象です。
決定機阻止と普通のファウルの違い
一見すると普通のファウルとDOGSOの違いはわかりづらいかもしれませんが、「得点の明白性」がDOGSOの最大のポイントです。たとえば、相手ゴールまでまだ距離があり、周囲に守備選手がいる状況でのファウルは、通常の反則とされます。
一方で、1対1の状況でFWがGKを抜こうとしている場面や、シュート直前のラストパスに対するファウルはDOGSOとして認定されやすくなります。したがって、同じファウルでもそのシチュエーションによって処分の重さが大きく異なるのです。
またDOGSOは「競技者の意図」よりも「結果」に着目して判断されるため、「故意ではなかった」という弁明は基本的に通用しません。あくまで得点機会を奪ったかどうかが基準です。
サッカーでの決定機阻止がレッドカードになる理由を知りたい
サッカーの試合では、あるプレーが「決定機阻止」と判定された場合にレッドカードが提示される場面をよく目にします。なぜそこまで厳しい処分が科されるのか、その理由を正確に理解することは、ルールへの理解を深めるだけでなく、試合展開を読み解く上でも大いに役立ちます。
このセクションでは、決定機阻止に対してレッドカードが適用される背景、ペナルティエリア内外の違い、さらには審判の裁量がどのように働くのかについて詳しく解説します。
レッドカードが適用される具体的な条件
決定機阻止においてレッドカードが出されるかどうかは、FIFA競技規則に明記された以下のような基準に基づいて判断されます。
- 明らかな得点機会があったか
- 反則の種類が著しく不正であったか
- 反則がボールに向かって行われた正当な挑戦かどうか
特に明白なゴールチャンスを意図的に妨害した場合や、ボールとは関係のない身体接触(プル、チャージ、蹴る行為など)によってプレーを中断させた場合、審判は即座にレッドカードを提示することになります。
これにより、守備側の重大なルール違反に対して公平な試合環境を維持することが目的とされています。
ペナルティエリア内外での違い
2016年のルール改正以降、ペナルティエリアの内外によってカードの色が変わる可能性が生じました。以下に比較してみましょう:
エリア | ファウルの種類 | カード | 理由 |
---|---|---|---|
ペナルティエリア内 | ボールへの正当な挑戦 | イエローカード | PKとトリプル罰則の回避 |
ペナルティエリア内 | ラフプレーや非正当な接触 | レッドカード | 意図的な反則と判断 |
ペナルティエリア外 | すべての決定機阻止 | レッドカード | PKの救済がないため厳罰 |
このように、エリアの違いが審判の判断に直結するため、選手や監督は状況判断を誤ると重大な失点リスクを抱えることになります。
レフェリーの裁量と試合の影響
決定機阻止かどうかの判定は、最終的にはレフェリーの裁量に委ねられています。特にDOGSOの4要素(方向、距離、守備選手の有無、ボール支配)をどのように評価するかは試合ごとに異なり、曖昧なシーンでは物議を醸すこともあります。
レッドカードの提示は試合の流れを一変させるほどのインパクトがあります。人数が一人少なくなることで戦術を大幅に変更する必要が生じ、守備的な布陣への移行やカウンター狙いへの切り替えが迫られるのです。
また、退場選手のポジションによっては戦術的な影響が甚大です。たとえば、GKがDOGSOで退場した場合は交代枠の使用も含めて構成を見直す必要があり、監督のマネジメント力が問われる場面でもあります。
レフェリーはプレーの意図・状況・流れを総合的に捉えながら、カードの色と処罰の重さを判断します。プレーが正当なチャレンジであったのか、それとも明確に反則的だったのか——その境界線がDOGSOの難しさであり、判定に対する理解が重要となる理由でもあります。
決定機阻止がハンドで起きた場合のルール適用を知りたい
サッカーにおいて、ゴール直前のシーンで手や腕を使ってボールを止める「ハンド」が発生すると、それが「決定機阻止(DOGSO)」とみなされるケースがあります。中でも意図的なハンドは最も重い反則の一つとされ、レッドカードが即座に提示される事例が多く存在します。
このセクションでは、ハンドによる決定機阻止の定義、故意性の判断基準、有名なハンド事例を解説しながら、なぜこの行為がそれほどまでに重大とされるのか、その背景を明らかにしていきます。
ハンドによる決定機阻止の定義
ハンドによるDOGSOとは、ゴールへの明確なシュートやパスを手や腕で意図的に遮った場合に適用される反則です。FIFA競技規則において、以下のように明記されています:
プレーヤーが意図的にボールを手や腕で扱い、相手チームの明白な得点機会または得点そのものを阻止した場合、そのプレーヤーは退場処分(レッドカード)とする。
これはDFだけでなく、GK以外のすべてのフィールドプレイヤーが対象です。ゴール前でのプレーにおいて、身体以外の手段(手・腕)を使ってボールの動きを止めることは重大なルール違反となり、得点の公平性を損なうとみなされます。
例えば、ゴールライン間際で手を使って明らかに得点になったはずのシュートをブロックした場合、その選手はたとえチームの勝利に貢献したとしても一発退場が科されます。
故意かどうかの判断基準
ハンドのDOGSO適用において最も重要なのが「故意性」の有無です。偶然ボールが腕に当たっただけでは原則としてレッドカードにはなりませんが、次のような状況では故意と判断される可能性が高くなります:
- 腕や手を意図的に広げて守備していた
- 不自然に身体を大きく見せるような動作があった
- シュートコースを明確に読んで手を伸ばした
- 選手の視野にボールが入っており、反応可能な状況だった
これらの要素をレフェリーが総合的に判断し、「故意のハンド」と見なされた場合は、DOGSOとして処理され、即座にレッドカードが提示されます。
一方で、至近距離で相手選手がシュートし、腕に偶発的に当たった場合などは、「不可避な接触」としてノーファウルやイエローカードにとどまることもあります。
有名なハンド判定の事例
ハンドによる決定機阻止は、サッカー史において数々の象徴的なシーンを生み出してきました。以下にその一部を紹介します。
スアレス(ウルグアイ) vs ガーナ|2010年W杯南アフリカ大会 準々決勝
試合終了間際、ガーナのゴール間近のシュートをスアレスが手で阻止。即退場となったが、その後のPKは失敗。ウルグアイはPK戦で勝利し、サッカー史に残るハンドDOGSOとなった。
デ・ロッシ(イタリア) vs デンマーク|EURO予選 2007
CKからのこぼれ球をゴール前で手でブロック。明らかに意図的な行為とされ退場処分。映像判定の導入前ながら、現場で正しく判定された例。
VAR導入後の事例:チャンピオンズリーグ2021
レアル・マドリード戦でのハンドDOGSOがVARで確認され、主審が再確認のうえレッドカードに変更。VARの有用性とともに、DOGSO判断の透明性が注目された。
これらの事例からもわかる通り、ハンドによる決定機阻止は試合結果に大きな影響を与える可能性が高く、厳正なルール適用が強く求められる行為です。
特に近年ではVARの普及により、レフェリーの目が届かなかった場面でも適正な判定が下されるようになってきており、DOGSO判定の精度と公平性はますます進化しています。
有名な決定機阻止の実例や判定を振り返りたい
サッカーの歴史には、「決定機阻止」が試合の命運を大きく左右したシーンがいくつも存在します。そうした瞬間は単なるルール違反ではなく、戦術的判断、選手の勇気や迷い、そして審判の判断の難しさを浮き彫りにします。
このセクションでは、ワールドカップやチャンピオンズリーグといった世界的舞台で起こった象徴的なDOGSO事例を振り返り、それらがどのような判定となり、どう議論されたかを考察していきます。
ワールドカップやCLでの象徴的な例
ルイス・スアレス(ウルグアイ) vs ガーナ|2010年W杯南アフリカ大会 準々決勝
延長後半、ガーナのシュートがゴールラインに迫る瞬間、FWのスアレスが手でボールを防ぎ退場処分に。PKは失敗し、最終的にウルグアイがPK戦で勝利。「英雄か卑劣か」という議論を巻き起こした有名なDOGSO事例。
ジョン・テリー(チェルシー) vs アーセナル|プレミアリーグ 2009
1対1の状況でアーセナルFWに背後からスライディングし、決定機を阻止。審判はDOGSOと判定し、レッドカード。スライディングがボールに触れていたか否かで議論が二分された。
オタメンディ(アルゼンチン) vs クロアチア|2018年W杯グループステージ
ディフェンスラインでの不用意なバックパスからクロアチアのFWがGKと1対1に。スライディングで止めたが、DOGSO判定。映像では「ギリギリ後方からの接触」で、主審の勇断が話題に。
選手の判断とその結果
決定機阻止の場面では、選手が“あえてファウルをする”という選択を取ることがあります。これは「イエローで済むなら戦術的に止めるべき」という判断です。いわゆる“プロフェッショナルファウル”の延長にあり、DOGSOと紙一重の判断が求められます。
具体的には以下のような場面が考えられます:
- 明らかに裏へ抜けられそうなカウンターシーン
- GKと1対1になる直前の相手FWを引っ張る
- 危険なパスミスの後、遅れてカバーに入る場面
しかし、これらの判断は「自分が退場になるか、チームが1点失うか」という究極の選択であり、選手の判断力・試合状況の理解力が問われます。中には、退場しても勝利を守ったスアレスのような例もあり、一概に“悪”とは言えない一面もあります。
ファンの間で議論を呼んだ判定
DOGSOの適用は極めてシビアな判断が求められるため、毎年のように物議を醸す判定が生まれています。その代表例として次のような事例が挙げられます。
バルセロナ vs パリ・サンジェルマン|CL 2017 ベスト16
ネイマールが倒されたプレーに対してPK&DOGSO判定。リプレイでは“ボールに向かっていた接触”があり、レッドではなくイエローにすべきでは?との議論が巻き起こる。
日本代表 vs コロンビア|2018年W杯グループステージ
開始早々のシュートがDFの手に当たりハンド&レッドカード。「不可避だったのではないか?」と一部では疑問の声が上がるも、ルール上は妥当との見方が多数。
このように、DOGSOは“白黒つけがたいプレー”であっても、審判が明確な決断を下す必要があるため、ファンやメディアからの注目度が高くなります。
加えて、VARの導入により透明性は向上したものの、リプレイの見せ方や角度の違いで見解が分かれることもあり、今後もDOGSO判定は議論の中心であり続けるでしょう。
審判の判定基準やVARとの関係を理解したい
サッカーにおける「決定機阻止(DOGSO)」の判定は、わずか数秒の判断で選手の退場や試合の流れを一変させる重大なものです。審判はその重みを理解したうえで、複数の要素を瞬時に分析し、最適なジャッジを下す必要があります。
また、近年ではVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の導入により、DOGSO判定の見直しや補完が可能になりつつあります。ここでは、判定のために審判が重視するチェックポイント、VARとの連携方法、そして誤審を防ぐための取り組みについて詳しく見ていきましょう。
審判が見るチェックポイント
DOGSOの成立には、審判が特定のポイントを瞬時に読み取ることが求められます。以下の4項目はFIFAルールでも明記されており、DOGSO判定時の基本基準となります。
- プレーの方向:攻撃側のプレイヤーがゴール方向に向かってプレーしていたか
- 選手とゴールの距離:得点に十分な近さがあったか
- 守備選手の数と位置:ゴール前に他の守備選手がいたかどうか
- ボール支配:攻撃選手が明確にボールをコントロールしていたか
これらがすべて満たされたときに「明らかな得点機会の阻止」とみなされ、DOGSO判定に至ります。特に“支配”と“守備選手の位置”は曖昧になりやすいため、副審との連携やその瞬間のプレー精査が極めて重要です。
VARでの確認プロセス
VARは、DOGSOに関して以下の2点で主審の判定をサポートします。
- 明白な誤審の修正
- 見逃された重大な事象の発見
VARが介入するのは「明白な得点機会の阻止」であり、それが正しく適用されていないと判断された場合に限られます。プロセスは以下のように進行します:
ステップ | 内容 |
---|---|
① 試合中にDOGSOが発生 | 主審が即座に判定(レッド or ノーカードなど) |
② VARが映像を確認 | 明らかな誤判定と判断されれば主審に連絡 |
③ オンフィールドレビュー(OFR) | 主審がタッチラインでリプレイ映像を確認 |
④ 判定の修正または維持 | DOGSOの適用有無を最終的に主審が判断 |
VARは“決定者”ではなく“補助者”であるため、最終的な判定はあくまで主審が行います。このプロセスにより、判定の公平性と透明性が向上しています。
誤審を防ぐための取り組み
DOGSOは主観的な要素も多く、100%の正解が存在しないこともあります。そのため、誤審を完全にゼロにすることは困難ですが、次のような取り組みが進められています:
- VAR運用基準の統一:国際大会と国内リーグ間で判断基準を統一する努力
- 審判の教育とシミュレーショントレーニング:DOGSOに特化した実戦映像による研修
- 選手との対話強化:プレーの意図を把握しやすくすることで曖昧さを減少
- 判定理由の説明透明化:JリーグなどではSNSで映像付き解説を実施
これらの取り組みにより、「なぜレッドカードだったのか」という疑問に対する納得感が高まり、ファンの理解促進にもつながっています。
総じて、DOGSO判定は審判の技術・経験・判断力に加えて、VARのサポート、制度設計の明確化によって成り立っています。技術と運用の両輪が噛み合うことで、試合を壊さずにルールを守るという理想に近づいているのです。
まとめ
「決定機阻止」は、単なるファウルとは異なり、サッカーにおいて得点機会を奪う重大なルール違反として扱われます。DOGSOという公式用語との関係や、レッドカードの条件、ハンドでの適用など、シーンごとに異なる判断が求められます。
審判やVARが担う責任も大きく、選手のキャリアや試合結果を左右する場面も多々あります。本記事で紹介したように、ルールの理解と過去の事例を通じて、より深くサッカーを楽しむ視点を養うことができるでしょう。