インナーラップサイドバックの使い方とは？育成世代も実践できる守備と攻撃の融合戦術を解説！

近年のサッカーにおいて戦術の多様化が進む中、「インナーラップサイドバック」という言葉が注目を集めています。従来のサイドバックとは異なり、中央寄りのポジションに入り込むことで数的優位を作り出すこの動きは、ポジショナルプレーやビルドアップ戦術において極めて重要な役割を担います。

本記事では、インナーラップサイドバックの基本的な意味や動き方から、適した選手像、実際の導入事例、他戦術との比較まで、実践的かつ体系的に解説していきます。

インナーラップサイドバックとは何か？意味と戦術的な特徴を知りたい
インナーラップサイドバックの使い方を実戦で理解したい
インナーラップサイドバックに適した選手の特徴や能力を知りたい
インナーラップサイドバックを取り入れている有名チームや監督を知りたい
インナーラップサイドバックと他戦術（オーバーラップ・偽サイドバックなど）との違いを比較したい
まとめ

インナーラップサイドバックとは何か？意味と戦術的な特徴を知りたい

近年のサッカー戦術において「インナーラップサイドバック」という概念は、ポジショナルプレーの深化と共に注目を集めています。

これは、従来のサイドバックがタッチライン際を駆け上がるオーバーラップに対し、より内側、つまりハーフスペースを進入する動きを取るスタイルです。従来の役割を逸脱し、中央寄りのスペースでプレーに絡むことで、数的優位を作り出し、攻守両面に新たな選択肢をもたらします。

インナーラップの定義と語源

「インナーラップ（inner lap）」という言葉は、英語で「内側を回る」ことを意味します。これは陸上競技などでも見られる用語で、インコースを使って相手の外側を抜く戦術に由来しています。サッカーにおいても同様で、味方選手（主にウイングやインサイドハーフ）の内側を通って、中央寄りに走り込む動きを指します。

この用語が注目されるようになったのは、近年の戦術的多様化の中で、従来型のオーバーラップではカバーできないスペースを意識する必要が出てきたためです。特にポゼッション型のチームにおいては、中央で数的優位を作ることがより重視され、その結果としてサイドバックの役割にも変化が求められるようになりました。

サイドバックのインナーラップ化とはどういう動きか

インナーラップ化されたサイドバックは、攻撃時にタッチライン際ではなく、ハーフスペースやセンターサークル付近まで移動してビルドアップや中盤のサポートに加わるのが特徴です。

ウイングがワイドに張っている状態を前提とし、インナーラップSBはその内側を進行
中盤のアンカーやインサイドハーフと三角形の関係を築くことで、パスコースの増加とプレス回避
攻撃時にセンターバックの隣に位置して3バック化しながら中盤に厚みを加える

この動きによって、相手の守備陣形を横に広げるだけでなく、中央でのパス交換による崩しの起点を形成することができます。

攻撃におけるインナーラップの狙いと効果

攻撃面でインナーラップがもたらす最大の利点は、中央での数的優位の創出です。従来であればサイドバックがタッチライン際にいるため、中央でのビルドアップはボランチやセンターバックに任されていましたが、インナーラップによって以下のような効果が期待できます：

中盤でのパスコース増加：サイドバックが加わることで、トライアングルが増え、パスの選択肢が広がる
相手のライン間侵入：サイドバックが中盤の一角としてプレーし、相手の守備ブロックのギャップに侵入
ビルドアップの安定化：センターバック2枚＋インナーラップSBで3バック的に構成し、前線への展開を安定させる

また、サイドバックが高い位置に上がることなく中盤でのプレーに徹することで、相手のカウンターへの即時対応も可能になるなど、攻撃と守備の切り替えにも優位性を持ちます。

守備時に与える影響とリスク

一方で、インナーラップには明確なリスクも存在します。まず、サイドのスペースが空くため、相手が素早いカウンターを仕掛けてきた際に、対応が遅れる可能性があります。特に、インナーラップSBが中央でプレーしている最中にボールを奪われた場合、ウイングバックやセンターバックが広いスペースをカバーしなければならず、守備陣形が乱れる要因となります。

また、以下のような課題も挙げられます：

味方選手との意思疎通が取れていないと、ポジションが重複してしまう
サイドからの攻撃が機能しにくくなることもある
守備時に外側を走ってくる相手ウイングへの対応が遅れる

これらのリスクを回避するには、ボールロスト後の即時プレッシングや逆サイドのカバーリング意識をチームとして共有することが不可欠です。

ポジショナルプレーとの関係性

インナーラップサイドバックは、まさにポジショナルプレーの象徴とも言える存在です。ポジショナルプレーとは、「適切な場所に選手を配置し、数的・位置的・質的優位を作ること」を目的とする戦術哲学であり、固定されたポジションに縛られない柔軟な動きが求められます。

インナーラップの動きは、以下のような戦術概念と深く結びついています：

戦術要素	インナーラップとの関係
数的優位	中盤での数を増やし、相手の守備を分断
位置的優位	ハーフスペースでのプレーでギャップを突く
質的優位	技術に優れたSBが中央での判断に関与

このように、単なる「SBが中に入る動き」ではなく、全体戦術との連動と役割の再定義が伴うことで、インナーラップサイドバックは成立します。

インナーラップサイドバックの使い方を実戦で理解したい

インナーラップサイドバック（以下、ILSB）という概念を戦術的に理解するだけでなく、実際に試合でどのように機能し、どのように動くのかを把握することは、選手にも指導者にも重要です。

特に近年では、アマチュアチームや育成年代の指導現場でもこの動きが取り入れられ始めており、体系的な理解と応用が求められています。

試合中にどう動くかの基本パターン

ILSBはサイドバックのポジションに位置しながら、攻撃の際に内側へ斜めに移動し、中盤やハーフスペースに入り込むことで特定のパターンを形成します。以下は、よく見られる基本的な動きの例です：

1. ビルドアップ時の3-2構造形成
自陣でのビルドアップ時、ILSBはCBの横に絞って3バック化。中盤に2枚を配置して、より安定したビルドアップを図る。
2. ハーフスペースへの斜めの侵入
ウイングがサイドに張った状態を維持する中で、ILSBはウイングの内側（ハーフスペース）にポジショニング。攻撃時に斜めのランで縦パスの受け手となる。
3. カウンタートランジションでのリカバリー
中央でボールを失った場合には、即座にプレッシングに転じる。位置的に中盤に近いため、回収成功率が高まる。

このような動きによって、ILSBは「守備的MFと攻撃的SBのハイブリッド」として機能し、攻守の橋渡し役として非常に重要な役割を担います。

ポジションごとの連携と役割分担

ILSBは単独で成立する役割ではなく、周囲の選手との連携があってこそ真価を発揮します。とくに関係性が強いのは、ウイング、インサイドハーフ、アンカー（守備的MF）です。

ウイングとの関係：ILSBが中に入ることで、ウイングが外に張るスペースが確保され、サイドで1vs1の状況を作りやすくなります。
インサイドハーフとの関係：ILSBが近い位置に入ることで、パス交換が容易になり、トライアングル形成によるプレス回避が可能になります。
アンカーとの関係：中盤を一緒に構成することになるため、役割分担とカバーのバランスが鍵となります。片方が前に出た際には、もう片方が後方をケアする動きが必要です。

このような「相互補完的な関係性」を理解せずにILSBを導入すると、チーム全体のバランスが崩れ、逆に攻撃も守備も不安定になる危険性があります。

具体的なトレーニング方法や導入のコツ

ILSBをチームに導入する際には、段階的なアプローチと意識共有が不可欠です。以下に、実戦形式で役立つトレーニング方法を紹介します。

ポジショナルゲームの導入
5対5＋フリーマンのようなポゼッション練習を通じて、どの位置に選手が入れば数的優位が生まれるかを体感させる。
サイドから中へ移動する動きの再現ドリル
SBの選手に対して、オーバーラップではなく内側に斜めに走り込む動きを繰り返し指導する。
役割共有のミーティング
動きの意図を周囲の選手に理解してもらうため、事前の戦術共有・映像分析を徹底する。

また、次のような視点を持つことも重要です：

ポイント	内容
段階的導入	守備面が不安なら攻撃時のみ導入し、慣れてきたら守備時の立ち位置にも着手
ロールプレイ形式の指導	実際の試合を想定し、各選手に具体的な役割を与える形で練習
指導者の理解度	指導者自身がILSBの概念を深く理解し、言語化できることが重要

最後に大切なのは、チームの戦術全体と照らし合わせて、ILSBが必要かどうかを見極めることです。すべてのチームがこの戦術を採用すべきというわけではなく、チームスタイルや選手層に応じて適切に判断することが求められます。

インナーラップサイドバックに適した選手の特徴や能力を知りたい

インナーラップサイドバック（ILSB）は、単にポジションチェンジを行う選手ではありません。その特性上、他のポジション以上に高度な戦術理解・判断能力・ポリバレントなスキルが要求されます。

ここでは、ILSBに適した選手像を掘り下げながら、どのような能力が求められるのかを具体的に見ていきます。

必要なスキルセットと判断力

ILSBに必要な能力は多岐に渡ります。以下に主なスキルとその具体的な意味を表にまとめました：

必要なスキル	具体的内容	重要度
戦術理解	試合中に状況を読み取り、内側に入るべきか外に張るべきかを判断する	非常に高い
ポジショニングセンス	ウイング・ボランチ・CBとの関係性を保ちながら最適な立ち位置を取る	高い
パス技術	中盤的な役割を担うため、短・中距離パスの精度と判断力が不可欠	高い
ボール保持力	中央でのプレー時にプレスを受けても落ち着いて捌ける力	中程度
視野の広さ	内側で受ける際に、縦・横・後方すべてを視野に入れる力	高い

特に重要なのは、「自分の動きが味方のスペースとどう関係するか」を理解できる能力です。インナーラップの動きはあくまで全体の連動の一部であり、自己完結するものではありません。判断の遅れや読み違いが、逆にチームのリズムを崩してしまうリスクも孕んでいます。

身体能力よりも求められる戦術理解度

ILSBにおいては、スピードやフィジカルの強さよりも、状況を読む力・戦術的インテリジェンスがより重視されます。もちろん、一定以上の走力やスタミナは必要ですが、それ以上に以下のような能力が問われます：

ポジショニング：位置取りの妙で局面を優位に運べる
プレースピードの変化：攻守のリズムを読み、適切なタイミングで動ける
カバー意識：味方のミスや位置のズレを即座に補完できる能力

このような能力は、走力に優れた若手選手だけでなく、経験豊富なベテラン選手にも適性があることを示しています。たとえば、フィリップ・ラーム（元バイエルン）やジョアン・カンセロ（バルセロナ）は、特筆すべき身体能力ではなく、その読みの鋭さと技術、そして柔軟性でこの役割をこなしています。

成功例に見るプレースタイルの共通点

ILSBとして成功を収めている選手たちには、共通するプレースタイルがあります。以下は代表的な選手の特徴とその動き方を抜粋した比較です：

選手名	所属クラブ（歴）	特徴
ジョアン・カンセロ	マンチェスター・シティ、バルセロナ	中盤での配球力、カットインからのシュート、攻守の切替の速さ
フィリップ・ラーム	バイエルン・ミュンヘン	ポジショニングと判断力、リスク管理、攻撃参加のタイミング
ベン・ホワイト	アーセナル	CBとSBを行き来できるユーティリティ性、戦術理解度の高さ

彼らに共通するのは、「内側でプレーする＝中盤選手のように振る舞える能力」を備えている点です。つまり、ILSBとして活躍するには、従来のSBの延長線上ではなく、むしろMF的な意識が必要となります。

このような視点を持つことで、選手の育成やポジション選定にも幅が広がります。SBだから外を走らなければならないという固定観念を捨てることで、新たな戦術的可能性が開けていきます。

インナーラップサイドバックを取り入れている有名チームや監督を知りたい

インナーラップサイドバック（ILSB）は、一部のクラブや監督の独自戦術として始まりましたが、近年では多くのビッグクラブで取り入れられつつあります。

その多くが、ポジショナルプレーを重視する監督によって導入されており、チームのスタイルや哲学と深く関係しています。このセクションでは、ILSBの先駆的活用例として注目されるチームと監督たちを紹介します。

ペップ・グアルディオラのマンチェスター・シティでの活用例

💬 「SBはサイドを走るだけではなく、中央でもプレーすべき」
― ペップ・グアルディオラ（Manchester City 監督）

ILSBの概念を世界的に定着させたのは、マンチェスター・シティのペップ・グアルディオラ監督です。彼はバルセロナ時代から中盤での数的優位に強いこだわりを持ち、それを実現する手段のひとつとしてILSBを採用しています。

代表的な選手がジョアン・カンセロです。彼は試合中に右サイドバックとしてスタートしながら、攻撃局面になると中盤に入り込んでアンカーのような役割を果たします。その結果：

中盤でのパス回しが円滑に
守備時には即座に中盤からボールを奪い返す構造が機能
3バック的配置により後方の安定性も確保

この戦術により、シティはボール保持率の高い試合運びと柔軟な守備対応の両立を実現しました。ILSBが、攻撃時の”第2ボランチ”として機能するモデルケースです。

アルテタやデ・ゼルビが行う類似システム

ペップの弟子であるミケル・アルテタ（アーセナル監督）や、戦術家として定評のあるロベルト・デ・ゼルビ（元ブライトン監督）も、ILSBに類する動きを巧みに取り入れています。

アルテタ（アーセナル）
ベン・ホワイトやジンチェンコを用いて、右SBや左SBが試合中にセンターライン付近まで絞る。
中盤の人数を増やし、プレス回避を重視するポゼッションを展開。
デ・ゼルビ（ブライトン）
ビルドアップ時にSBが中央に入り、相手の第一ラインを誘導してギャップを突く。
中盤で優位性を保ちつつ、ダイナミックな展開を狙う。

このように、ILSBの動きは「サイドバックの配置転換」ではなく、「ビルドアップと守備ブロックの構造改革」として捉えられているのが特徴です。

日本代表やJリーグでの実践事例

ILSBの考え方は、徐々に日本サッカー界にも浸透してきています。日本代表でもビルドアップ時にSBが内側に入る場面が増えており、Jリーグでも各クラブが模索を始めています。

日本代表（森保一体制）
2022年以降、板倉滉や伊藤洋輝といった選手が左SBとして起用される際に、
内側にポジションを取り、3バック＋2インサイドの形で構えるケースが見られます。
川崎フロンターレ
登里享平や山根視来などがSBから中央に入り、中盤を形成することで
ビルドアップの選択肢を増やす工夫がなされています。
横浜F・マリノス
アンジェ・ポステコグルー体制時代に、SBが頻繁に内側へ移動してプレーに関与。
ワイドなウイングと中央の厚みを両立させたポジショナルプレーを展開。

これらの事例は、「欧州の戦術をそのまま輸入する」のではなく、日本の選手特性に合わせて最適化されたILSBの活用である点が注目に値します。

まとめると、ILSBは単なる戦術トレンドではなく、チームの構造全体を再設計する要素として各国の監督に支持されています。特にポジショナルプレーやトータルフットボールを志向するクラブにおいて、その導入と成果が顕著に現れているのです。

インナーラップサイドバックと他戦術（オーバーラップ・偽サイドバックなど）との違いを比較したい

現代サッカーでは、サイドバックの役割が多様化し、それぞれの戦術における動き方に明確な違いが存在します。特に「インナーラップサイドバック（ILSB）」「オーバーラップ」「偽サイドバック」といった用語は似ているようで、それぞれの目的や動線、試合への影響が異なります。

このセクションでは、それらの違いを整理し、チーム戦術の中での選択基準や使い分け方について詳しく解説します。

オーバーラップとの動き方の違い

「オーバーラップ」は従来のサイドバックの基本的な攻撃参加の動きであり、ウイングの外側を走ることでサイドの崩しを狙うものです。

オーバーラップ： サイドの縦のスペースをえぐる → クロスやカットインを狙う
インナーラップ： ウイングの内側を走る → 中盤に入り込んでビルドアップや崩しに関与

オーバーラップが「幅を取る役割」なのに対し、インナーラップは「厚みを作る役割」です。フィールド上での軌道も、外周を走るのか、内側へ絞って斜めに入るのかという点で明確に異なります。

項目	オーバーラップ	インナーラップ
主な走行経路	サイドライン沿い	ハーフスペース内側
主な役割	ワイドな攻撃・クロス供給	中盤の数的優位、ビルドアップ支援
ウイングとの関係	内側に絞るウイングと連携	外に張るウイングと連携

このように、役割・目的・立ち位置がまったく異なるため、チームのビルドアップやサイド攻撃の設計思想に応じて選択が必要になります。

偽サイドバックとのポジション取りの違い

「偽サイドバック（インバーテッド・フルバック）」もILSBと似た動きで語られることが多いですが、戦術的な背景には違いがあります。

偽サイドバック： ポゼッション重視の中で、サイドバックが明確に「中盤化」する。
中央でボールを持ち、インサイドハーフ的に振る舞う。
ILSB： 攻撃時に内側へ入り、状況によって中に入るor外に出る可変性を持つ。
より柔軟なポジショナルプレーに即した動き。

偽サイドバックは中央に常駐する傾向があり、ILSBは流動的な役割を果たす点で異なります。

項目	偽サイドバック	ILSB
主なポジション取り	中盤に固定的に入る	状況に応じて内外を使い分け
主な戦術哲学	ポゼッション支配・中盤強化	可変システム・ポジショナルプレー
代表的な使い手	ラーム、カンセロ（中央寄り固定）	ジンチェンコ、ベン・ホワイト（可変性重視）